世のインクジェットプリンターには,染料インクを使用するものと顔料インクを使用するものがあります.
代表的な製品で言うと,CANON S1は染料インク,EPSON PX-1V/1VLやCANON G1/G2は顔料インクを使用しています.
本記事では,様々な視点からそれぞれのインクによる写真印刷への影響をまとめます.
目次
インクの仕組みの違い
インクはその大半を「純水」が占めます.
そこに色のもとである「色材」と,その他いろいろな添加剤を混ぜることで作られています.
〈画像挿入〉インクの組成のイメージ
染料インクは,「色材」はインクに溶けて存在します.
顔料インクは,「色材」はインクの中で小さい粒の状態で散らばって存在します.
〈画像挿入〉色材の溶け方のイメージ
そのため,紙に色をつける方法も異なります.
染料インクは,インク中の「色材」を紙に浸透させることで発色します.
顔料インクは,インク中の「色材」を紙の表面に載せることで発色します.
〈画像挿入〉印刷表面のイメージ
この違いが,それぞれのインクの特性に関わってきます.
作品印刷への影響(印刷前)
紙の種類と表面の質感
染料インクは,印刷表面が滑らかになります.
顔料インクは,染料インクに比べ滑らかさでは劣ります.
〈画像挿入〉印刷表面のイメージ
そのため,光沢感を重視するプリントでは染料インクが適しているといえます.
逆に顔料インクは,さまざまな用紙種類にプリントできるため,幅が広いと言えるでしょう.
また,顔料インクでは,ブロンズ現象と呼ばれるものが起こる事もあります.
ブロンズ現象とは,微細に粗い光沢面において,表面が金属の輝きのような,本来とは違う色に見える現象です.
Canonの顔料プリンター「PRO-G1」「PRO-G2」には,クリアコート機能というものがあります.
これを使うと,顔料でも表面を平滑にすることができ,ブロンズ現象も低減することができます.
〈画像挿入〉クリアコートのイメージ
また,それ以外の顔料プリンターでも,表面にコーティング剤を塗布するという方法で表面を平滑にするという方法もあるようです.(要検証)
発色
染料インクは,発色が良く鮮やかであるという特徴があります.
顔料インクは,色の再現や階調が高精細であるという特徴があります.
用紙種類にもよりますが,光沢紙/超光沢紙においては染料インクの方が優れ,マット紙では顔料インクの方が優れていると言えるかもしれません.
作品印刷への影響(印刷後)
乾燥時間
染料と顔料で重要な違いの一つが,印刷してからインクの乾燥・安定までにかかる時間です.
染料インクは,インクは紙に浸透するため,写真の色と濃度の安定に時間がかかります.
顔料インクは,速乾性があるため,印刷直後から写真の色と濃度が正確に現れます.
そのため,染料インクを使う場合は印刷してから数日の間に色合いが変わることを覚えておきましょう.
筆者は実際に展示加工までの乾燥時間として,顔料インクで1日以上の乾燥時間を確保しています.
耐久性・劣化
染料と顔料でもう一つ重要な違いが,印刷後からの耐久性です.
染料インクは,光やガスによる環境要因に非常に弱く,本来の色彩が時間が経つにつれ失われやすいという特徴があります.
顔料インクは,染料にくらべ環境要因に強いですが,傷など物理的要因に弱いという特徴があります.
〈画像挿入〉劣化・擦過傷のイメージ
劣化を防ぐためには,展示環境を適切に保つことが重要です.
コーティング剤を塗布することも有効でしょう.